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第292話 

ノックを終えた後、遠藤花は中からの返事も待たず、若子を伴ってドアを押し開け、そのままオフィスに入っていった。

入った瞬間、オフィス内から荒々しい声が響き渡った。「誰が入っていいと言った!出て行け!」

その声は、まるで地響きを起こす猛獣のようで、地面から突き上がってくるかのような迫力だった。

遠藤花はその場で固まり、目を大きく見開いた。若子の手を握りしめるその指先は、さらに強く力が入っていた。

若子も驚き、凄まじい怒声に一瞬身がすくんでしまった。

彼女自身、遠藤花に無理やり連れてこられただけで、決して自分から入りたかったわけではなかったが、それでも彼の怒りに満ちた姿は、まるで大地震が襲いかかってくるようで、衝撃が心身に波及した。

室内の全員が二人に注目し、お嬢さんがこのように激しく怒鳴られているのを見ると、もう一人の見慣れない女性、

若子のことも当然ただでは済まないだろうと感じ、静かにその場の成り行きを見守っていた。

遠藤西也の怒りに満ちた表情が、若子を見た瞬間に一瞬で凍りつき、目の奥の怒火がまるで一時停止ボタンを押されたかのように鎮まった。

若子は気まずそうに口元を引きつらせ、遠藤花の手から自分の手をそっと引き抜き、控えめな微笑みを浮かべながら「すみません、お邪魔しました」と小さく声をかけた。

そして、その場を去ろうと身をひるがえすと、

「待ってくれ」と遠藤西也の声が響いた。

若子は足を止め、振り返って「何かご用ですか?」と尋ねた。

遠藤西也は素早くデスクを回り込み、彼女の目の前まで大股で歩み寄った。

彼の表情はどこか焦りを含み、まるで何か失敗をしたかのように、戸惑いを隠し切れなかった。「若子、どうしてここに来たんだ?」

まさか彼女がオフィスに来るとは思っていなかったし、

ましてや先ほどの怒りの場面を彼女に見られることになるとは夢にも思わなかったのだ。

「その……」若子は内心の緊張で言葉に詰まり、どう答えていいのか分からなくなった。

オフィスにはまだ数人の部下たちが立っていることを横目で確認し、「すごくお忙しそうですし、お邪魔になるので帰ります」と一歩引こうとした。

その場に居るだけで手のひらに汗が滲むほど緊張していて、今日は来るべきではなかったと後悔していた。

若子が再び身を翻そうとすると、遠藤西也が慌ててその行く手を遮り、
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